こんにちは。リアだよ。
今日はね、朝からなんだかずっと眠くてね。目が覚めても、頭も体もぼーっとしてて、ベッドから出る気がしなかったの。パパがいつものように「リア、ごはんだよ」って声かけてくれたんだけど、うーんって首を振って、そのまままた目を閉じちゃった。
ごめんね、ごはん。私、お腹は空いてたはずなんだけど、食べる気力がなかったのよね。お薬も、今日はどうしても飲めなかった。パパが心配そうに見つめてたの、ちゃんとわかってたよ。でも、どうしても、今日は「飲もう」って気になれなかったの。
だけどね、昼過ぎくらいかな。おひさまの光がベランダにさーっと差し込んできて、そのあったかさに誘われて、なんとなく体を起こして、ゆっくりゆっくり、ベランダまで歩いてみたの。
風がひんやりしてて、ちょっとだけ冬の匂いがした。それがなんだか心地よくて、「今日、生きてるな」って思えたの。
何も食べてないし、お薬も飲んでない。でもね、ちゃんと歩いた。ちゃんと空を見た。私、今日も生きてるよ。
ごはんも、お薬も、今日はちょっとお休み

ほんとはね、食べたい気持ちはちょっとだけあったのよ。でも、今日は体がまだ無理だよって言ってる気がして、どうしてもお口が動かなかったの。
パパがスプーンで大好きなごはんを目の前に持ってきてくれたの。あのやさしい声で「ちょっとでいいよ、ね、リア」って言ってくれて、スプーンを私の鼻先に近づけてくれたんだけど、私は、ちょっと顔をそむけちゃった。
パパ、がっかりしてたよね。わかってるの。だって、パパは私が元気に食べて、お薬もちゃんと飲んで、また「よし、今日も大丈夫だ」って思いたいんだよね。私もそう思いたい。けど、今日はそれができなかったの。
お薬だって、ほんとは飲んだほうがいいってわかってる。私の心臓のこと、腎臓のこと、リンパのこと、いろんなところが弱ってきてるの、ちゃんと自分でも感じてるから。だから、いつもはね、パパやママが「リア、お薬の時間よ」って言うと、ちょっと嫌だけど、頑張って飲んでたのよ。
でも今日は、お口に入れても、ぺってしちゃった。体が「もういいよ」って言ってる気がして、それに従っちゃったの。そのときのパパの顔、うん、見ないようにしちゃった。だって、私も胸がぎゅっとなったから。
私がごはんを食べなかったり、お薬を飲まなかったりするたびに、パパとママは「もうすぐなのかな」って思うのかな。もしかしたら、「リアが苦しくないように」って願ってくれてるのかもしれない。それはね、すごく伝わってくるの。私、愛されてるなって思う。
でも、今日はちょっとだけ、そういう全部から少し距離を置きたかったのかもしれない。食べなくても、薬を飲まなくても、私はまだここにいて、ちゃんと今日という日を生きてるから。
だから、あなたも、あなたのお友達がもしごはんを食べなかったり、お薬を嫌がったりしても、その一日だけで終わりだなんて思わないで。もしかしたら、その子も、今日だけはちょっとお休みしたいって思ってるのかもしれないから。
それでもベランダには、自分で出てみたんだよ

お昼すぎだったかな。窓のカーテンから、ふわって陽の光が差し込んできたの。目を細めてその光を見つめてたら、なんだかちょっとだけ、外の空気に触れたくなったのよね。
ベッドの上から起き上がるの、最近はとっても大変なの。前みたいに、ぱっと立ち上がることなんてできなくて、体をひとつひとつ確かめるみたいに、そーっと起きるの。足を一歩出すたびに、「よし、まだ動くな」って思いながら歩くの。今日も、よたよたしながら、でも自分で歩いたのよ。ベランダまでね。
ガラス戸の前まで行くと、パパが気づいてくれて、「リア、出たいの?」って声をかけてくれた。そう、その通り。私は今、外に出たいの。だからじーっとパパの顔を見つめて、しっぽをほんの少しだけ、ぴこって動かしたの。
ベランダの床は、冷たかった。でもね、それが気持ちよかったの。風がほっぺたにふわって触れて、耳の毛が少し揺れた。遠くでカラスが鳴いてて、どこかの子どもが笑ってて、ああ、今日も世界はちゃんと動いてるって思ったの。
それでね、私、立ち止まって、空を見上げたんだ。白い雲が、ひとつ、ふたつ、ゆっくり流れてたの。私はそれを見て、「ああ、これが今日なんだ」って感じたんだよ。
何もしてないように見えるかもしれない。でも、私にとっては、あのベランダの5分間は、すごく大きな冒険だったの。そして、とっても誇らしい時間でもあったのよ。
あなたのお友達も、もしかしたらいつか、何もできないように見える日が来るかもしれない。でもね、その子が自分の足で一歩を踏み出したとき、それはもう、ものすごくすてきな奇跡なのよ。
だから、どうかその瞬間をちゃんと見てあげて。「よくがんばったね」って、ただそっと声をかけてあげてほしいの。その一言でね、私たち、次の一歩がちょっとだけ軽くなるのよ。
寝てる時間が長くなっても、私はここにいる

最近の私はね、ほとんどの時間を寝て過ごしてるの。起きてる時間のほうが少ないかもしれない。昔みたいに、おもちゃを追いかけたり、ママのあとをちょこちょこついて歩いたり、そんなことはもうできないの。
でもね、寝てるだけって、何もしないってことじゃないのよ。目を閉じてる間、私はいろんなことを感じてるの。
パパの気配。ママが立てる、コーヒーをいれる音。お兄ちゃんが帰ってきたときの玄関の「ただいま」。お姉ちゃんが私の頭をなでてくれる、あのやさしい手のぬくもり。どれも、ちゃんと届いてるんだよ。私はここにいる。そう思わせてくれる、私の大切な世界なの。
時々ね、夢を見るの。走ってる夢。遠くの公園までお散歩してる夢。昔の私が元気いっぱいで、風を切って駆け回ってるの。夢の中で「わぁ、こんなに軽い!」ってびっくりするのよ。目が覚めると、体は重たくて、あれ?ってなるけど、でもね、その夢を見られるってだけでうれしいの。
あなたのお友達も、きっと同じ。寝てばかりだからって、心が止まってるわけじゃないの。ちゃんとあなたの声を聞いてるし、そばにいるあなたの存在を感じてる。
だからね、何かしてあげなきゃって思わなくていいの。ただ、そばにいてくれるだけで、私たちはとっても安心するのよ。
あなたが話しかけてくれるだけで、私たちは「生きてる」って思えるの。時間がゆっくり流れていくこの感じが、今の私にはちょうどいい。
寝てる時間が長くなっても、それは「終わり」に向かってるんじゃなくて、「今を大事にしてる」ってこと。ひとつひとつの時間を、静かに抱きしめてるような感じかな。
私ね、寝てる間も、あなたたちのことを考えてるんだよ。これまで一緒に歩いてきた時間や、うれしかったこと、楽しかった思い出がね、ぜんぶ、ちゃんとここにあるの。私の中にね。
だから、大丈夫。私はまだここにいる。静かにだけどしっかりと、今を生きてるよ。
こんな日があっても、悪くないよね?

今日はね、なにもできなかった日かもしれない。ごはんも食べられなかったし、お薬も飲めなかったんだ。ほとんど寝てばかりで、パパやママを安心させてあげられたかって言われたら、たぶんできてないよね。でもね、それでも私は思うの。今日という一日は、ちゃんとあったって。
食べられなかったことも、飲めなかったことも、全部ひっくるめて、それが今日の私だった。がんばれない日があってもいいんだよね。進めない日があってもいいと思う。それでも時間はちゃんと流れて、私はその中にちゃんといたんだから。
あなたのお友達も、きっと同じ。元気に歩ける日もあれば、動けない日もある。食べてくれる日もあれば、首を振る日もあると思う。でもね、どの日も、ちゃんとその子の一日なんじゃないかな。
私たちは、若いころみたいに毎日なにかを達成しなくてもいいの。今日は呼吸できた。今日はあなたの声を聞けた。今日はベランダで風に当たれた。それだけで、もう十分すぎるほどなんだと思うの。
もし、あなたが今日、食べてくれなかったとか、薬を飲まなかったとか、ずっと寝ていたとか、そんなことで胸が苦しくなっていたなら、私はこう言いたいんだ。
それでも、その子は今日をちゃんと生きた。
あなたのそばで、ちゃんと生きた。
ってね。だからね、どうかその子を責めないでほしいんだ。できなかったことより、そばにいたことを、大事にしてほしいんだよね。
今日の私は、ほとんど寝ていたけど、でも、空も見たし、風も感じることができたんだ。それだけで、今日は悪くない日だったよ。あなたとあなたのお友達の今日も、きっと、悪くない日だったんじゃないかな。
リアより


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