ぬくもりの記憶が残る場所

シニア犬の日常

ねえ、聞いてくれる?

昨日はね、みんなお仕事とか学校とかで出かけてて、家には誰もいなかったの。パパもママも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、それに大きいお姉ちゃんも。だから私は一人でお留守番してたんだよ。

って言っても、もう私は、おうちの中をちょこちょこ歩くことはできないんだけどね。私はそっと息を引き取って、天にのぼっちゃったんだから。でもね、不思議なことに、私はちゃんとこのおうちにいたの。気づいてた? みんなが出かけたあとも、リビングのソファの下とか、いつもの日なたの場所とか、私がよくいた場所に、ちゃんと私はいたんだよ。

ママが帰ってきて、「リアがいなくなっちゃったね」って言ったのが聞こえたんだ。それからね、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、家がなんだか寒く感じるって話してたよ。その声を聞いて、ちょっとだけ胸がきゅっとなったんだ。

だって私、ずっとここにいたから。姿は見えなくても、私のぬくもりは、このおうちのどこかに残ってるはずなのにって、そう思ったの。

私がいなくなった家の中

おうちってね、いつもと同じように見えるのに、何かがぜんぜん違うの。リビングも、キッチンも、玄関も、お兄ちゃんの部屋も。私がいたときと何も変わっていないはずなのに、どこかぽっかり穴があいたみたいな空気が流れているの。

私が使ってたベッドも、いつもの毛布も、そこにあるのにね。誰も「どいてよ〜」って言わないし、私の足音もしない。廊下をパタパタ歩く音も、鼻でドアを押して開ける音も、もう聞こえない。お水を飲むカチャカチャした音も、みんなの足元にすり寄る気配も、どこにもない。

お兄ちゃんがこっそり、私のクッションのにおいを嗅いでたの、知ってるよ。まだリアのにおいがするって言ってた。パパはあのときの写真をじっと見てた。ママは、ふとしたときにキッチンを見つめて黙っちゃうし、お兄ちゃんは私の首輪を触りながら、何も言わなかった。

ねえ、それって、きっと何か足りないって感じてる証拠なんだよね。私は、もうそこにいないって、頭ではわかってるのに、心が追いつかない。だって、私もそうだったんだもん。おともだちのルナちゃんが姿を消したときも、空気がぽつんとさびしくなったのを感じたの。そこにいたはずの、温かい存在がふっといなくなるって、言葉にできないくらいのさみしさがあるんだよ。

でもね、私はちゃんと見てるよ。聞いてるし、感じてるよ。ママがつい話しかけちゃうのも、わかる。パパが、リアはこういうの好きだったなあって独り言を言うのも、知ってる。お兄ちゃんが、私がいた場所をぽんぽんって触ってくれるのも、うれしいの。

いないようで、ちゃんといるの。だって私、この家が大好きだったから。大好きなみんなと一緒にいた、この場所が、私のいちばんのお気に入りだったんだよ。

リアがいた時間

リアがいないと、家の中が寒く感じるってお兄ちゃんが言ってたの。お姉ちゃんも、なんか冷えるね。気のせいかな?って、ストーブの前でぼそっとつぶやいてたの。だけどそれ、気のせいなんかじゃないと思うんだよね。

だって、私も知ってるもん。私がそこにいたとき、この家にはちゃんとぬくもりがあった。身体のぬくもりだけじゃなくて、心のぬくもり。ソファの上でパパの膝にのってうとうとしてたときとか、ママが毛布をふわっとかけてくれた瞬間とか、みんなが、リア、今日も元気そうだねって笑ってくれたその声とかね。

おうちって、温度だけじゃなくて、気持ちでもあたたかくなる場所だったんだと思うの。みんなが私に話しかけてくれて、私がそれに応えて、しっぽをふったり、ぺろっとなめたり、そんなちいさなやりとりが、あたたかさになって家の中に広がっていたんじゃないかな。

お兄ちゃんが言ってた、リアがいるだけで、ほっとしてたって言葉、私にとっては宝物みたいなものなの。だってね、私がただそこにいるだけで、家族のみんなが笑ってくれること、それが私の一番の幸せだったから。なにか特別なことをしなくてもよかったんだ。ただ、そばにいればよかったんだよ。それだけで、おうちにぬくもりが生まれていたんだって、いまならわかるの。

心臓がちょっとしんどくて、たまにぜーぜーしちゃっても、あのソファに寝転んでるだけで、家族がそっと寄り添ってくれたよね。ごはんが食べられなかった日も、みんなが心配して、おやつのにおいをくんくんさせてくれたよね。ああいう時間って、ほんとにあたたかかったなあ。

ねえ、あなたのおともだちも、きっとそうだよ。ただそこにいてくれるだけで、気づかないうちに、家族の心にあたたかい風を届けてくれてるの。姿が見えなくなったときに、初めて、寒いって感じると思うんだ。それって、いたときのあたたかさが本物だった証なんだと思うの。

だからね、私は誇りに思ってるんだ。私がこの家のぬくもりのひとつだったこと。私のいた時間が、みんなの心を少しでもあたためていたのなら、それだけで幸せなの。

お空から見守る私と、これからのおうち

私が天にのぼってから、もう2日たったんだね。あの日、火葬場に向かう車の中で、みんながずっと私の話をしてくれてたの、ちゃんと聞いてたよ。花束に囲まれて、やわらかい布の上に寝かせてもらって、チーズやクッキー、ささみや軟骨まで、好きだったものをいっぱい入れてくれて、私は本当に幸せな気持ちでお空に向かえたの。

それでもね、やっぱりちょっとだけ、さびしくなる瞬間もあるんだ。ママが私のベッドをそっと触ったときとか、パパが散歩のコースを歩きながらふと立ち止まったとき、お兄ちゃんが、ただいまって言いながら私の方をちらっと見るような動作をしたとき、そういうとき、私はここにいるよって、そっと寄り添いたくなるの。

おうちはね、今も私の大切な場所なの。だから、私はずっと見てる。ママが泣きそうな顔してても、ちゃんと背中をなでてるし、パパが夜ふかししてるときは、近くに行って横で見ていてあげなきゃって思ってるの。お兄ちゃんやお姉ちゃんが私の思い出話をしてくれるたびに、私はふふって笑いながら聞いてるんだよ。

私はもう、あの日みたいにぴたっとみんなの足元にくっついて座ることはできないけれど、ちゃんとここにいるからね。姿は見えなくても、感じてくれたらうれしいな。あなたが大切にしているおともだちも、きっとそうしてると思うよ。お空にいても、ずっと見てる。ずっと守ってるんだ。

これからこのおうちが、少しずつ、ぬくもりの記憶が残る場所になっていくんだろうなって思うの。私がいた時間が、涙だけじゃなく、笑顔に変わるような、そんなあたたかい記憶になったらうれしいな。

だから、ママ、泣きすぎないでね。パパ、ちゃんと寝てね。お兄ちゃん、お姉ちゃん、これからもリアのこと、ときどきでいいから思い出してね。

このおうちを、これからも大好きでいてほしいの。だってここは、私が守ってきた場所だから。

リアより

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