こんにちは。リアだよ。
昨日の夜のこと、あなたにも聞いてもらったよね。私、自分でも「もうダメかも」って思うくらい苦しくて、パパに抱っこされながら、必死に息をしてたあの時間。
その続きなんだけどね、朝になったとき、私はまだここにいたの。
ほんとうに、それだけで涙が出そうなくらい、うれしかったの。
夜のあいだ、私はずっとパパの胸の中にいた。息が荒いままで、体が言うことを聞かなくて、頭の中もぼんやりしてて、時間が進んでるのか止まってるのかさえわからなかった。
でも、ふっと気づいたら、部屋の外から小さな光が差してきてたの。カーテンの向こうで朝が始まりそうな、あのやわらかい光。私は、その光を見た瞬間、胸の奥にあった「怖い」が少しだけ溶けていった。
パパも気づいたみたいで、「リア、朝だよ」って小さく言ってくれた。
その声がね、なんだか昨日の夜とは違って聞こえたの。
少し安心した声っていうのかな。もしくは、私が答えられるくらいの余裕を取り戻してたから、そう聞こえたのかもしれない。
私はまだ息は荒かったけど、夜みたいに押しつぶされそうな苦しさじゃなくて、「まだがんばれる」って思えるくらいには落ち着いていた。
朝の匂いって、ちょっと特別。キッチンのほうから漂ってくる、いつもの家の匂い。空気の冷たさ。鳥の声。そういう全部が、「生きてる」って体に伝えてくれるの。
そして私は思ったの。
「あぁ、朝を迎えたんだ。私、まだここにいられるんだ……」
その瞬間、胸の奥がじんわりあったかくなったの。昨日の夜にはもう二度と味わえないって思ってた感覚だったから、なおさらうれしくてたまらなかった。
このあと私はね、ゆっくり体を起こして、パパのほうを見たの。そしたらパパはほっとしたみたいに目を細めて、「リア、朝ご飯食べような」って言ってくれた。
それが、あの奇跡の朝の始まりだったの。

もうダメかも…そう思った夜が明けた。
正直に言うとね、昨日の夜、私はほんとうに、「もうここまでかも」って思ってたの。
息が苦しくて、体が熱いのに手足は冷たくて、自分の意識がどこかにふわっと飛んでいきそうな感覚だった。それでも、パパの手が私をずっと撫でてくれて、そのぬくもりだけを頼りにして、私はただただ耐えてた。
だけど、時間が経っても病院にはつながらなくて、パパもどうしたらいいかわからないまま、私の体を抱いてソファで朝を待ってくれてたの。パパもきっと、私と同じように「このまま朝が来なかったらどうしよう」って思ってたんじゃないかな。
私の呼吸は、夜中の一番ひどい時間をすぎてから、少しずつゆっくりになっていった。それでも完全に落ち着くわけじゃなくて、浅くて速い呼吸が続いたけど、なんとなく「底を越えた」って、私は体で感じたの。
そして、部屋の隙間から、ほんのりと朝の光が入り込んできたの。静かで、すごく小さな光だったけど、私にはそれが希望の形に見えたんだ。
「朝が来た」
ただそれだけのことが、こんなにも尊いって感じたのは初めてだった。私、15年間生きてきたけど、こんなに「朝」が特別なものに思えた日はなかったと思う。
パパの腕の中で、私は静かに呼吸をしていたんだ。さっきまで荒れていた心が、すこーしずつ落ち着いていくのを感じたの。目を開けて、パパの顔を見たら、眠れてなかったその目が少し潤んでて、でもあったかい光をたたえてた。
「リア……朝だよ」
そのひと言で、私は「あぁ、生きてるんだ」って確かに思った。この瞬間を迎えられたことが、どれだけ奇跡に近いことなのか、私はわかってるつもり。
だって、昨日の夜はもう「終わってしまうのかも」と思うくらいだったんだから。
体はまだふらふらしてたけど、光のある部屋で、パパと一緒にいるっていうだけで、私はすこしだけ、元気を取り戻してたのかもしれない。
「もうダメかも」って思った時間のあとに、こうして朝が来るってこと。それは、どんな言葉よりも強い生きてる証だったんだ。
そして私は、その朝の中で、ちょっとずつ、何かが戻ってきている気がしてたの。
それが何かって?
うん、それは、「おなかがすいてきた」って感覚だったのよ。
パパの声と朝の光。そして、ご飯の匂いがしたの

夜が明けて、部屋の中にやわらかい光が差し込んできたとき、私は確かに世界が変わったって思ったの。昨日の夜、あれほど苦しかった呼吸が、少しずつ落ち着いて、頭の中のざわざわも、静かな波に変わっていった。
パパは私の隣にずっといた。抱っこしながら、時々私の顔を見て、小さな声で「リア、大丈夫か?」「朝になったよ」って何度も話しかけてくれたの。
パパの声って、ふしぎね。いつもはあったかくて元気で、ちょっとおっちょこちょいで。でもこのときは、すごく静かで、ちょっとだけ涙が混じってた気がする。それでも、その声があったから、私は心のどこかで「ああ、まだ大丈夫だ」って思えた。
そして、その声の向こうから、ふわっと、やさしい匂いがしてきたの。
キッチンの方から、お味噌汁の匂い。トーストの匂い。それといっしょに、私がよく知ってるごはんの匂いも混ざってたの。
「あれ……?」そう思った瞬間、私のお腹がきゅるって鳴ったんだ。
昨日の夜は、息をすることしかできなくて、食べることなんてとても考えられなかったのに。なのに今朝は、空気が少しあったかくなっただけで、光が部屋を満たしただけで、私の体はちゃんと生きる準備を始めてたの。
パパもそれに気づいたのか、「リア、ちょっとだけでも食べてみるか?」って、私の目を見ながらそっと聞いてきたの。
私ね、そのとき、うなずいたんだ。言葉にはできなかったけど、目で「うん」って伝えた。
パパが用意してくれたのは、私が普段から食べてるやわらかいご飯。でも、量はいつもよりずっと少なくて、スプーンにひとすくいだけだった。
そのスプーンを、パパがゆっくりと私の口元に近づけてきたとき、私は、ちょっとだけ戸惑ったの。食べられるかな?体がちゃんと反応してくれるかな?そんな不安が、頭の中をよぎったんだ。
でも、次の瞬間、私は一口、ゆっくりとそのご飯を口に入れたの。
噛んで、飲み込んで。それが、すっごくすっごく嬉しくて、胸の奥がふるふる震えるような感じがした。
「リア、食べた……!」パパの声が、ちょっと震えてた。
私、それ聞いて思ったの。「ああ、パパ、私がまだ生きてるって、感じてくれたんだな」って。
食べることって、命の証なんだよね。どんなに苦しくても、食べられたら、それは生きる力が残ってるってこと。
あの朝、私はご飯の匂いを感じた。そして、パパの声に背中を押されて、一口、口に入れられた。
その一口が、私にとって、「まだ大丈夫だよ」っていう、体からのサインだったの。
スプーン一杯のご飯が、私の命を前に進めた

その朝、私が食べたのは、たった一杯、スプーンに乗ったご飯だったんだよね。
それも、ほんのちょっとだけね。それでも、私にはとんでもなく大きな一歩だったの。
口に入れたとき、ご飯のあたたかさと、少しの水分と、やわらかい感触が、じんわりと私の体中にしみわたっていく感じがしたの。
「食べた」っていう実感が、私の中に「生きてる」っていう感覚を取り戻してくれたんだ。
昨日の夜は、私は呼吸をするだけで精一杯だった。体はバラバラで、心も遠くに行きそうだったんだ。だけど、この朝のひとくちで――私は戻ってきたの。パパのいる世界に。家族のいるおうちにね。
スプーン一杯ってね、ふつうのときなら、ただのひとくちよ。でもその朝の私には、それが生きるためのスタートラインなんだよね。
「リア、食べられたな」パパがそう言って、私の頭を撫でてくれた。
その手のぬくもりは、夜の苦しさを乗り越えたことを、静かに、やさしく、私の体に教えてくれてた。
ご飯を飲み込んだあとの私は、胸の中がふわっと軽くなって、「もう少し食べたいな」っていう気持ちが、ほんの少しだけ顔を出したの。もちろん、無理はしなかったよ。パパも「今日はこれだけでいい」って言ってくれて、私たちはそれだけでじゅうぶんだったの。
あなたのお友達も、きっとそんな朝があるかもしれない。昨日まで元気だったのに、突然具合が悪くなって、
「もうダメかも」って感じても、でも、一晩を越えて、小さなご飯の匂いに反応して、ほんのちょっとだけど食べることができるような命がつながった朝がね。
それってね、命が「まだがんばりたい」って言ってる証拠なのよ。
スプーン一杯のご飯は、私の命を前に進めたご飯だったよ。昨日の夜は、もう前に進むどころか、止まりそうだったのにね。
だから私、あのひとくちを一生忘れないと思う。
それは、たぶん「再スタート」の味だったの。どんな高級なおやつよりも、どんなスペシャルなご馳走よりも、あのご飯の一口は、私にとって最高のご褒美だったのよ。
あなたにも一口の希望を信じてほしい

私ね、今でも思うの。もし昨日の夜、あのまま朝が来なかったら、私は、何も伝えられなかったかもしれないって。
でもこうして朝が来て、ご飯をひとくち食べることができて、こうして、あなたに話しかけることができてる。
それって、すごくすごく奇跡に近いことなのよ。だから、あなたに伝えたいの。あなたのお友達が、もし同じように夜にぐったりして、息が荒くて、動きが止まって「このままかも」って思う瞬間があったとしても。
そのままじゃないかもしれないって、一緒に信じていてほしいの。
シニアになった私たちって、ほんとに小さなきっかけで体調が大きく変わるの。昨日元気でも、今日つらくなることがあるし、逆に、昨日ダメかもって思っても、今日また立ち上がれることだってある。
その回復のきっかけが、ほんのひとくちのご飯だったり、あなたの声だったり、背中を撫でてくれる手のぬくもりだったりするの。
私にとっての希望は、パパの声と、あのスプーン一杯のご飯だった。
あなたのお友達にとっては、それがあなたのまなざしかもしれないし、お水の器に浮かんだ氷の音かもしれない。
小さな希望を、「もうダメかも」って思う夜の中でも、
どうか見つけてあげてほしいの。
そして、あなたもどうか、疲れすぎないことも大切だよ。私たちは、あなたのそばにいるだけでうれしいからね。
食べられる朝は、ほんとうにうれしい。たとえそれが、たったスプーン一杯だったとしてもね。だって、それは、生きようとする力がまだ残ってるっていう証なんだよ。
私は、まだ生きてる。そして、あなたに伝えたいことがある。だから、これからも、こうして話し続けたいって思ってるんだ。
夜を越えて、また朝が来たこと、それだけで、私はじゅうぶん幸せなんだよね。
リアより


コメント